愛してやまない

観劇ログ、はじめました。

ヨーロッパ企画イエティ#14「スーパードンキーヤングDX」

 ヨーロッパ企画イエティ#14「スーパードンキーヤングDX」を観劇しました。
 めちゃくちゃ笑った〜!こういうの本当に好きだあ。こういう出会いがあるから観劇がやめられない。これ観てない人いるんだなあ。もったいないなあ。
 
 思い返せば意外とストーリーは真面目なのに、あんまりばかばかしくって、そんなことすっかり忘れてゲラゲラ笑ってしまっていた。ネタバレあります。

あらすじ

 事故から十年間眠り続けたヤンキー男がついに目を覚ました。空白の十年の間に変わってしまったこと。サブカルの衰退。新しいコンテンツの台頭。すっかりサブカルを捨てた、かつてのバイト仲間たち。音信不通になった嫁の行方。
 どうして自分が病院で眠り込んでいたのか。嫁は一体どこへ行ったのか。混濁する記憶からは導き出せない。とにかく嫁を探さなければ。
 
 ふと病室で流れたテレビ番組を見て、男は驚く。そこでフードセラピストとして特集されていた嫁は、かつてのヤンキー姿とはすっかり変わってしまっていた。
 とにかく足取りは掴めた。なんとかして、嫁に会いに行こう!という感じのお話。一見、真面目そうに見えるけど、コメディです。
 
 
 ヤンキー男のサブカルとの出会いは、ヴィレヴァンだった。ひょんなことから男は「ここで働かせてほしい」と半ば強引に押しかけ、バイトを始める。周りのバイト仲間も最初は暴力的なヤンキーを敬遠していたが、次第にサブカルに染まっていく気の良い男に、心を開いていった。
 しかし、嫁はそれが気に入らない。自分の世界を広げていく男に対して、嫁の世界は今までと同じ。いつも何かに反抗して、たった二人だけで生きてきたのに。
 
 そんな焦燥感を埋めるかのように、嫁はある日ハーブティーのお店にハマる。そこからは坂道を転がり落ちるようなスピードで、オーガニックでミニマリストな暮らしに目覚め、いつしかフードセラピストに。目覚める気配のない旦那のことは諦め、ヤンキーだった過去は消して生きていた。
 
 そんな嫁の前に、十年ぶりに現れた旦那。暗躍する黒幕。宗教的信仰心の暴走。無印という巨大組織。みうらじゅん大先生の踏み絵*1。あらゆるもののドンキ化。ヤンキーの神様。
 
 最後は二人ともヤンキーカルチャーに戻るけど、まあ勉強はしとこうね!的な感じで、元の形に収まりつつ、じんわりあったかいエンディング。

所感

 諸々風刺通り越して完全に馬鹿にしてるんだけど、ヤンキーを恐れるサブカルの思考回路として、とても納得できてしまう。この鬱屈した引け目というか、未知の境界線を大袈裟に作ってあるユーモアがとても良かった。サブカルで育った根暗にはピンポイントで刺さる舞台です。
 強烈な偏見を逆手にとった共感性が最高にツボ。絶対関係各所に怒られるだろうなと思いながらも、こういうのを自由にやっちゃえるのが舞台の良さだな〜。
 
 ここまでシニカルだと大体共感性ゴリ押しでストーリーが入ってこないコメディになっちゃうはずなんですけど、この作品は主軸がしっかり“良い話”してるんですよね。
 自分の芯は曲げられないし、無理せずおさまるべきところにおさまったらいい。わざわざ他者を排除する必要もない。そういうところも含めて、めちゃくちゃ良い作品でした。バカバカしいのによくできてる。むしろ、バカバカしいところもよくできてるというべきか……。

どのカルチャーに所属するのか

 時代と共に旬は変わるし、自分の年齢的にも「サブカルがお金になるか」とか考えていくわけじゃないですか*2サブカルってもはやモノのジャンルじゃなくて、所属意識に発展しちゃってるので。ヤンキーと変わらないんですよ。
 
 ヴィレヴァン店員たちがサブカル抜け出しても、次にやってることがメンタリストやトレーニングのYoutuberなら、根本そんなに変わってない。過去の所属カルチャーを下位に見るマウンティングで、自分を上位存在に置きたがってるだけで。
 中から見てると細かな違いはあるけど、外から見たらわりといろんなものが同じように見えてるのにね。
 
 結局みんなカルチャーから抜け出したつもりで、また同じことやってるんですよね。そんなことを繰り返していくと、混ざり合って混沌になっちゃう。大衆受けを目指すと方向性がブレていく。その混沌の代表が劇中の“ドンキ”だったりするんですけど笑。これもパンチ効いてるワードだ。

フードセラピストの完成度

 フードセラピストの完成度が異常に高すぎる。トークショーもセブンルールのパロディも。本当に「お皿を器って言い始めたらヤバい」んですよ。喋りのスピード、発声、マイクの通し方。お芝居のディテールがすごい。
 
 ヤンキーの時のお芝居がものすごい剣幕で本当に怖いので、ますますこのフードセラピストの丁寧な喋り方が異様なんですよね。役者ってすごいな。表情の柔らかさも全然違う。こういう人、いる〜!と思った。フードセラピストのトークショーなんか行ったことないのに。

ミニマリストという宗教的強迫観念

 ものを捨てるって一種の快楽を伴うので、ミニマリストが行き着く先に危険思考があっても不思議ではないよね*3。いらないものの定義が人によって違うから。賛同できなければ殺す、は起こりうる未来だなあ。

無印に怒られるぞ!

 とうとう人造人間作成にまで着手してしまうグローバルカンパニー。護身用スタンガンもなんのその。「家までにしとけよお〜!」というツッコミにもまた笑ってしまう。人造人間の紙袋の雑さすらずるい。笑っちゃうよね。出オチだもの。

感想まとめ

 一から全部面白かったところ説明したいくらいなんですけど、これを全部文字にするの野暮ね。とてもおもしろかった。大歳さん作品もっと観てみたいな。
 
 

*1:本物のみうらじゅん先生の写真だった。

*2:まあサブカルこじらせて行き着くところは蕎麦になっちゃうんですけどね。

*3:暴論ではある。