愛してやまない

観劇ログ、はじめました。

劇団鹿殺し「傷だらけのカバディ」

 劇団鹿殺し本公演「傷だらけのカバディ」観劇しました。
 舞台上で本当にカバディ(とアクロバット)をやるので、劇場すーっごく暑かったです。場内アナウンスで「客席内も暑くなりますので、コート等はお脱ぎください」って事前に案内してもらえる(優しい!)んですが、それでも甘く見てました。ニットいらないくらい暑かった。もっと薄着でも良かった。
 12/5大阪初日トリプルカテコ挨拶は最後にあります。

あらすじ

 2020年オリンピック、カバディが新競技として登録されることが発表。あらゆる国で急拵えの代表チームが設立される中、これなら私たち素人でも金メダルを狙えるんじゃない?!と日本のど田舎・鹿神村で二人の若者がチーム設立に立ち上がる。
 
 ジジババばかり(!)の鹿神村で運命的に出会った七人と一人。キャプテンのエース、残念なイケメン桃農家・カオダケ、カバディやったことないインド人のカーン、天才東大生・ライオネル明、パッとしない忍者の末裔・佐吉、村長の息子でゲイのロボコップ、元プロカバディ選手・ブッダ。そして、マネージャーの紀子。
 それぞれの家庭環境やら周りの思惑に翻弄されながらも、金メダルを目指して彼らは切磋琢磨。オリンピック予選トーナメントを順調に勝ち進んでいく。しかし、チーム・鹿神SEVENは決勝トーナメントでインドに敗退。チームはギスギスした空気のまま、夢破れて解散となる。
 
 数年後。教師を辞め、NPO法人「Love Dream」を設立した紀子の元に、ある依頼が届く。「鹿神SEVENのメンバーを集めて、東京に集合しろ。あの日の夢を叶えてやる」差出人はエース。当時、紀子ノートに書いたみんなの夢のリフレイン。時を経て、鹿神SEVENの時間がまた動き出す。というお話。

感想

 終演後。開いた扉から涼しい風がふわっと入ってきて、すごく気持ち良かった。ああ、今までこんなに熱い空間にいたのか。気付かなかったな。いつの間にか私も、紀子と同じだけの熱さで見ていたんだな。なんて思ったりもしました。暑かったけど。
 
 鹿殺しメンバー関連は「俺の骨をあげる」ぶりの観劇なので、ずいぶん久しぶりに感じる。いつもは歌うシーンがザ・ライブ!って感じの鹿殺しなんですが、今回は振付に梅棒の伊藤今人さんが参加している*1からか、いつもとちょっと違う印象を受けました。ダンスにすごく意識が向いた。いつもフォーメーションこんなに複雑でしたっけ?ブロックを閉じて開いて、前後列入れ替わって、また内部で立ち位置変わって。目まぐるしい。カバディの競技性質を理解すればするほど、この振付の意図がわかるような気がする。
 
 試合シーンでアクロバット観れて楽しかったな。椎名鯛造くんのバク転も側宙も間近で見れてしまうので、迫力がある。あと、彼のアクロは危なげないんですよね。ステージの大きさに関わらず、安心して見れる。椎名くんの話ばかりしてしまう。好きなことがバレてしまうな。
 
 観ているとカバディがやりたくなってしまう。それくらい試合シーンは手に汗握る展開で、思わず前のめりになりそうだった*2。意外と奥が深い。カバディは愛と家族の象徴。オフェンスは必ず自陣に生きて戻ることを考え、一人で出陣する。ディフェンス側は手を繋いで、心を一つにする。忘れちゃいけないのは、命を大切にすること、信じて待っている仲間のために最後まで倒れないこと。泥と汗の匂いがする愛と信頼。
 
 明のおかげで、大団円で物語は着地する。明の若年性アルツハイマーは治らないままだけど、あの日に繋げなかった手はちゃんと現在と未来に繋がった。良い話だったな。

好きな台詞

「他人の人生に自分重ねて勝手に感動してんなよ」

 オリンピック決勝トーナメント・インド戦の前に控え室で日本代表・鹿神SEVENは仲間割れを起こす。これもインド企業による八百長の一貫で、カオダケのスキャンダルに始まり、忍者とインド人のカーンの買収*3。それをきっかけに小さな綻びが大きくなっていく。ゲイのロボコップが邪な気持ちでプレーしているんじゃないかと疑う明。もう肩がろくに上がらないエースをキャプテンとするのはおかしい、前の試合だってほとんど仕事してないじゃないか。インドチームからスカウトのきているブッダの独走を危惧する声。
 乱闘を始めたメンバーを宥めようとする紀子に、激昂したままのエースが「お前はいつもそうだ」「他人の人生に勝手に感動してんなよ」「外野は黙っててくれ!」って言うシーンでの台詞。
 
 マネージャーの紀子は選手じゃないからサポートすることしかできない。だから、どれだけ選手が苦しい状況にいようと、本当の意味で苦しみを理解してあげることは難しいんですよね。だって、カバディやってないもの。
 特にエースはもともと肩を壊して、野球を諦めて、それからカバディをはじめた。夢を失って自暴自棄になっている時に、もう一度何かできるかもしれないと思ってたのに、それさえも失うかもしれない焦燥や喪失感を理解なんて、できっこない。チームメイトであっても。
 外部の人間のくせに口出しするな、と畳み掛けられて、紀子は言い返すこともせずに「ごめん」って言う。最初にカバディチームを作る時に言った言葉が、そのまま自分に返ってきてるんですよね。自分じゃできないから、誰か他の人にやってもらう。それをサポートして、横で見て、まるで自分の人生が輝いているみたいに錯覚させてくれ。(ニュアンス)ってことを言うんですよ。エースにまたヒーローになって欲しかったから。
 
 刺さる〜〜〜!と、客席で被弾するオタク。たぶん正確な台詞ではないと思うんですが、ニュアンスで。他人の人生の輝きをまるで自分のことのように一喜一憂する。そのための努力や苦悩なんてしていないくせに、結果にのっかる。身に覚えしかなかった。心が痛いな。
 
 

「愛は俗物なんかじゃない!」

 この台詞も好きだったな。視界が開けるような光がある。エースに言われ、ラクシュミーにプロポーズするために飛びだすブッダ。「僕とカバディしませんか?」って喜んでおうけしてくれるのラクシュミーしかいないよ〜。
 

12/5大阪初日トリプルカテコ挨拶

菜月: 大阪初日トリプルカーテンコールありがとうございました。みんなすぐ服脱いじゃうから(カテコに出て来れない)。そろそろ学習すればいいのにね。
 
 鹿殺しは関西で旗揚げした劇団で。関西では人気なかったので劇団ごと東京に移動したんですが。でも、こうやって帰ってくると、戻ってきたなあと思います。毎年、大阪で公演できていることに感謝しています。
 
 傷だらけのカバディは、ずっと動き回っていて、すごくしんどい舞台です。鯛造さんには本当に頑張っていただいて。こうやってできるのも、鯛造さんのおかげです。
 
椎名: いえいえ、皆様(お客様)のおかげです。
菜月: 本日は誠にありがとうございました。
 
 

*1:劇団員の浅野康之さん振付もあるので、全部が今人さん振付というわけではないのですが。

*2:しないけど。

*3:もし日本チームに有利な展開になれば足を引っ張れ、という約束。