愛してやまない

観劇ログ、はじめました。

KOKAMI@network「地球防衛軍 苦情処理係」

 KOKAMI@network「地球防衛軍 苦情処理係」観劇しました。大人の特撮ドラマでした。
地球防衛軍」という政府組織の、いわゆるお客様センターに焦点を当てたお話。恋もするし、鬱屈した現代社会の手厳しさもリアルに描かれていて、一見すごく真面目なんだけど、それな!と言いたくなる社会風刺や、怪獣バトルもある。モンスタークレーマーも、実際の怪獣も両方。
 川崎悦子さん*1振付のダンスシーンも見どころ。原くんの踊りってやっぱりすごいな〜!と眺めてしまった。優馬くんと駒井さん顔ちっさ!

 

あらすじ

 異星人・怪獣から地球を守るために結成された政府組織・地球防衛軍。そのお客様窓口として開設された苦情処理係には、毎日のようにクレームが殺到している。怪獣に家を壊された。地球防衛軍のミサイルが家に当たった。支援金が少ない。早く怪獣を倒せ。なぜあの攻撃が効かないんだ。税金泥棒。人殺し。お前がなんとかしろ。罹災証明書を出せ。
 地球を守るために戦っているのに、住民の不満は止まらない。苛立ちをぶつけられ、事務的な対応をして、自分たちは何のためにこの仕事をしているのだろうか。
 
 深町(中山優馬)は地球防衛軍苦情処理係に勤める真面目な青年。その正体は、地球を守るために宇宙から送り込まれてきたハイパーマンだった。しかし、怪獣を倒したのに地球人からは破壊の象徴として批判され、深町は今まで信じていた正義に疑問を抱くようになる。
 そんな中、深町は苦情処理係に配属された派遣社員・日菜子(駒井蓮)にアプローチされ、二人は恋人同士に。日菜子にハイパーマンであることがバレてパニックになる深町。しかし実は、日菜子も滅びゆく故郷を救うために侵略先を探しにきた宇宙人であった。そこで深町は、そもそも怪獣の発生の原因は、深町の故郷が宇宙へ放ったエネルギーによるものだと聞かされる。そのエネルギーが地球人のネガティブな感情を集め、怪獣として具現化していたのだ。地球を守ると大義名分を掲げ、自分たちが引き起こした悲劇の尻拭いをさせられていたことを知る深町。
 地球人へ原因を明らかにすべきだと深町は進言するが、上司は聞く耳を持たない。それどころか、地球侵略のためにやってきた日菜子を消すように命令する。一方、恋人の深町と戦いたくない日菜子は、一緒に地球侵略に協力してほしいと言い出して……。
 

所感

 自然災害とかそういう規模の大きい理不尽なものを、絶望の象徴として描かれている作品が好きなので、怪獣襲撃の時にアンサンブルの方々が客席一列目でレポーターや住民に扮しているのがめちゃくちゃ良かったです。地球防衛軍は何をやっているんだ!って非難したい気持ちと、地球防衛軍も頑張ってるのに!って気持ちが混ぜこぜになる。
 博品館劇場とか知ってる場所が潰れていくの、ふふってなっちゃうな。大阪公演はたいして盛り上がってない地名代表の台詞、ちゃんと大阪仕様になってましたよね?ベッドタウンの地名を挙げていた気がする。
 
 保険のギミック細かすぎてめちゃくちゃ笑った。火災保険に入ってても、地震で起きた火災であれば通常は地震保険の範囲になるので火災保険はおりない(ですよね?)。それと同じように怪獣との戦闘で起きた被害も天災とみなされるので、たとえ地球防衛軍による被災だったとしても"怪獣特約"をつけてないと保険おりないんですよ。
 この痒いところに手が届かない落とし穴がリアルすぎるし、こういうのって実際に事故にあって初めて気付いたりする。粋な社会風刺だ……!私も絶対、保険に怪獣特約はつけようと思ったね。
 
 地球防衛軍が被災地域に行くだけで非難されたり、クレームの電話を受けるシーンの虚しさ。正しい宛先のない悪意をサンドバッグみたいに受け続けながら、こちらが不利益を被らないようにうまく誤魔化して、どうにか丸くおさめる過程。泣いちゃうな。誰も悪くないけど、お前が悪い、って責められてるみたい。理不尽だけどどうしようもない。
 でも電話のシーン、めちゃくちゃ好きだった。不条理のループを淡々とこなしていくテンポ感。良い。事務仕事〜!って感じだ。定時になったら速攻留守電入れるのもめちゃくちゃリアルだ。
 
 ラストの怪獣バトル中に深町と日菜子の愛を確かめるシーンがあるんですが、人間の深町と日菜子が抱き合ってる後ろで、怪獣も同じように抱き合ってる。真面目で感動的だけど、なんか笑える。すごくシュールなんですよね。
 

深町と日菜子の恋仲

 深町っていつの間に日菜子のことそこまで好きになったの?最後、故郷を捨てて駆け落ちしてくれるんですよ?故郷への不信感が募ったとはいえ、すごい決断力だ。
 深町は綺麗事でも、全部救いたい人だから、日菜子も日菜子の故郷も救いたかったんだろうな。
 
 深町と闘いたくない!っていう割に殴る蹴るの暴行に一切の迷いがない日菜子がめちゃくちゃ破天荒で笑った。自分の正義が強すぎて曲げられない人なんだよね。私は嘘つかない!っていう割には、深町に嘘をつくよう強要する女は破滅の匂いがする……。でも献身的な子だから、今背負ってるものが無くなったらもっと楽に生きられるのかもしれないな〜。深町は彼女にとって、本当のヒーローになるんだろうね。
 

それぞれの過ち

 遠藤は、一度だけ大きな過ちを犯してしまう。情に流されて本来発行できないはずの特別罹災証明書を初めて対応した被災者に出してしまうんですよ。初めてちゃんと電話をとった相手が、シングルマザーで子供もいるのに、雀の涙ほどしか支援金がもらえなかったから、ついかわいそうになって。苦情処理係にとっては、そんなケースは珍しくない。規律に則って決められた保障しかしてはいけないのに、つい。*2
 贔屓したらキリがないから法律や商品規約をきめてるわけですよね。お金が欲しいだけのクレーマーはたくさんいる。仕事していくうちに自分の過ちに気付くけれど、もう遅くて、シングルマザーの新しい彼氏(ヤクザ)が、また罹災証明を出せと脅迫してくる。
 最初から上司と相談していれば防げたはず。けれど、苦情処理係に電話をかけてくる奴なんて全員クソだ!という上司・竹村に、そんな相談はできなかった。
 現代社会の縮図ですよね。そんな上司に「この人に特別罹災証明書を出してください!」なんて言えないよね。その後も打ち明けられるはずないよね。明るくひょうきんにおどけながら、遠藤は一人で苦しみ続けている。
 
 そんなふうに一見冷たく見える直属上司・竹村も地球防衛軍のミサイルによって妻を亡くした被害者。地球防衛軍が憎い気持ちを押し込めて今までやってきたけれど、被災した時に寄り添ってもらえなかった悲しみが消えない。苦情処理係の存在意義すら見えないままなのに。
 
 出来事にはいつも自分と相手の立場や思惑があって、一つの正義だけでは動けないから、地球防衛軍と被災者の両方の立場にいる竹村は今まで本当に、壮絶だっただろうな。でも結局失ったものって戻らないから、謝られようが結局埋まらないんじゃないかなとも思う。瀬田さんのミサイル*3によって親を殺され、毎日「人殺し」と電話をかけ続ける女子高生に、ちゃんと竹村の言葉は響いたのかな。電話は切られちゃったけど。
 ただ、なくしてしまったものの代わりに生きがいとか意地とかそういうものを当てがってしまう人にとって、苦情処理係がなくなるのは困るよね。捌け口を用意するのも、一つの優しさの形だと思うから*4
 

原嘉孝演じる遠藤、めっちゃええやん!

 原嘉孝演じる、遠藤というキャラクターの良さよ。お調子者でヒロインにはちっとも振り向いてもらえないけど、すっごくすっごく心優しい、ヒーローに憧れる青年。ハイパーマンに一番最初に「頑張れ!」って声をかける人。
 
 遠藤はどこを切り取っても嫌味がなくて、クリーンなんですよね。ちょっとお馬鹿なところも笑えた。滲み出る好感度の高さ。人の恋路に首突っ込んでも、ジメッとしてないからあんまり気持ち悪くなくて、すっごく明るいコメディになる。と言っても、日菜子を直接デートに誘うときはちょっと気持ち悪さが出るんですけどね。ちょっと下心あるな〜!コイツあわよくば精神あるな〜!って感じだから(笑)プレイボーイぶる童貞っぽさというか。でも、可愛げとか人の良さを随所に感じるから、遠藤いいな〜!って思える。深町にひなちゃん泣かせるなよって感じのこと言ったり。遠藤は人のことを考えて、ちゃんと空気読むんですよね。おちゃらけた面が目立つけれど、本当にめちゃくちゃ優しい人なんですよ。
 
 同じコメディ要員でも、以前に原くんが演じていたメタマクの元きよしとか、バンロバとも全然雰囲気が違うなあ。ちゃんと別人。遠藤は物を知らないことはあるんだけど、ちゃんと自分で物事を見て考えられる。だから、苦情処理係でいろんなご意見を頂いても辞めずに、仕事を続けられるんだろうな。遠藤はヒーローを夢見ているけど、現実を見ていないわけじゃない。そうじゃないと、パイロット栄転のコネ作りのためだけに苦情処理係に入ってきたりしない。まあ、その肝心のパイロット試験には何回も落ちてるんですが(笑)遠藤は、誰かを助けてあげたい気持ちはブレないけど、全員は助けられないことも知ってる。
 こういうところ、ちょっと原くんに似てるなと思ったり。原くんもすっごい現実主義*5だけど、向上心が見えなかったことは一度もなかったので。私が見てきたうちはね。
 
 鴻上さんの演出で、共演に矢柴さん、大高さんって楽しいだろうなあ。ちゃんと調和してた。原くん本当にお芝居が良い。
 コメディらしくピタッと笑顔貼り付けて止まったり、大真面目に馬鹿なこと言ったり、ヒーローを夢見たキラキラの顔、わかっていたけどどうしようもなかった悲痛の顔、寂しいけど仲間を信じている顔。原くんって本当に表情豊か。
 特に、子供安全教室のところで、子供達に遠藤パイロット!頑張れ!って呼ばれるシーンかな?目からキラキラがこぼれ落ちるみたいに嬉しそうに笑って、良いシーンだったな。子供安全教室のシーン、楽しかった〜!
 
 最後に消えてしまった二人の話をしながら空を見上げる遠藤の表情が、寂しいけど信じてる!って感じでとても良かったな。竹村に「戻ってきて欲しいのはどっちに?」って茶化すように聞かれて、「どっちも」って答えるのも。優しさと気遣いが目一杯詰め込まれていて、すごく良い台詞だったな。
 

感想まとめ

 学生の時に見たらもっとライトな見え方をしたかも。社会人になってから、身に染みて共感する嫌な感情なんかもあった。でも、そんなもどかしさや歯痒さも、なんかすき。お話の雰囲気は明るいのに足元に鬱々と暗い感情が這いつくばっていて、たまに足をとられてしまったりする。でも最後は劇中で一番眩い光が差すのが、鴻上さんだなあと思いました。それが幸福かどうかは別のお話だけど。
 
 でも今回の地球防衛軍は希望か絶望かで言えば、間違いなく希望だと思える結末。メリーバッドエンドでもなく。寂しさはあるのに、不思議だね。明るいお話だったな、ってちぐはぐな感想になる。きっと苦情処理係メンバーのおかげだろうな。空を見上げて、きっとどこかにいるよねって信頼をしている。なんか、いいな。
 そして、正しく特撮のお話だな、と思ったりもする(笑)正義の話だけど、愛の話でもある。
 
 アンケートと一緒に鴻上さんが書かれたあいさつ用紙も頂いたんですが、鴻上さんのこういう柔らかい感性から生み出す作品が私は好きなんだろうなあと思いました。そりゃあ他人だから、感覚がわからない時もあるんですけど、こういうの読むとつい絆されてしまう。
 何かを説明している間に、一部分だけを切り取ってかみつかれること。その誤解を解く間に、弁明を見ていない人からまた同じ場所について同じ問いを受けている連鎖。すごく疲れるの、なんとなく知ってる。
 

特撮衣装に熱くなるオタク

 意外と怪人・怪獣の着ぐるみのクオリティが高くて、びっくりした。怪獣デザインがちゃんとしてるんだよなあ。質感がいいんですよね。頭はゼットン星人*6を彷彿とさせるような細長フォルムで、胴から下にかけてパイナップルの皮みたいなイガイガした鱗のようなものがある。アンダーとしてストレッチ素材のスーツもきているので、もちろんアクションにも問題なし。人型怪獣のいいところは複雑な対人格闘技できるところですから。
 ハイパーマンの方もまあまあ良いストレッチ素材で悪くなかった。分厚めのタイツみたいな生地なんですけど、肘膝関節の生地が余ってないので比較的スタイリッシュに見えました。動きやすそう。サイズと生地の伸縮性が良いんだろうな。サンケイホールブリーゼで見る副次的な特撮要素と考えると、あの衣装はなかなかのクオリティだと思う。感心しながら見てしまった。なんでや。
 
 終わってからちゃんとパンフレット確認したら、本当に協力に円谷プロがあったから笑っちゃった。特撮は本当に浅ーいライトなオタクなんですが、怪獣がすきなのでついつい見ちゃうな。
 
 

*1:Endless Shockでお馴染み

*2:だから、劇中でも「必要なら保険に怪獣特約をつけてね!」と言うシーンが多々出てくる。どの保険が何に適応されるかどうかも確認することが大切!身に染みる言葉だ。

*3:怪獣との戦闘中に起きた不慮の事故

*4:ちゃんとカウンセリング受けた方がいいと思うけどね。

*5:だって、主演舞台の大楽挨拶で「たぶん二度とこのメンバー(カンパニー)で集まることはないと思うんですけど」とか言っちゃうんですよ、この人!

*6:ケムール人マスクの方